風神と竜神と織り姫
風神
むかーしむかし服部谷の奥の相木村に棲む暴れん坊がおった。
時折谷を吹き降り暴れ回って、収穫間近の稲をなぎ倒したり
刈り取った稲をかけたハサ場ごと吹き飛ばしたり、酷いときは
家の屋根まで吹き飛ばしたりして、近隣の村々の人々はそれはそれは迷惑して
おった。
龍神
その頃、水間谷の奥の権現山にある柳の滝には龍神が棲んでおって、
時折、空から雲を集めて大雨を降らせては田んぼや畑は言うに及ばず
谷中の家々まで押し流して暴れ回ったりしておったので
村人たちに恐れられ、嫌われておった。
織り姫
一方、両方の谷の入り口にあった朽飯村には
くだら姫というたいそう美しい機織り姫が住んでいて
その手から織り出される布はそれはそれは美しい輝きを放って
見るものを皆幸せな気持ちにさせていたそうな。
乱暴者で皆から恐れられていた風神と竜神じゃったが、
そんな美しい姫を一目見るなりすっかり心を奪われてしまい
是非とも自分の嫁にしたいと言い出した。
そこで、風神は美味しいキノコや果物を山ほど持参しては
なんとか気を引こうとしておったし、
竜神はヤマメや鮎などをドッサリと子分のカッパに運ばせては
姫のご機嫌うかがいをしておった。
しかし、姫はそんな二人の日頃の乱暴さを知っているので
貢ぎ物なんぞで心を動かされることはなかったし、
第一食べきれないようなたくさんの食べ物に
うんざりしていたので、二人が代わる代わる訪ねてきても
家の中に閉じこもっていて顔さえ出さずにいた。
姫の姿が見えなくなっても、風神と竜神は外から
大声で「オラの嫁になってくれ~」「家に嫁に来てくれ~」
と叫び続けた。
来る日も来る日もヒューヒュー、ザーザーと騒ぎ立てられて
ほとほと困った姫はとうとう意を決して家から出てきて
二人に告げた。
「私にはお二人の内のどちらかを選ぶなんてことはできません。
でもどうしてもとおっしゃるのなら、お二人とももの凄い力自慢の
方たちですから、お二人であそこにある三里山を動かす力比べを
して下さい。見事動かすことができたら、私はその方の嫁になります。」
風神も雷神もいくら自分の力が強いとは言っても山を動かすなんて
やったことがなかったので一瞬たじろいだんじゃが、
美しい姫を自分の嫁にすることをあきらめることはできなかったし、
ましてお互いの意地もあって姫からの提案を断ることはできなかった。
「ようし、おれ様の力を見るがいい。あんな小さな山動かすのくらい
へでもないわ」
二人とも精一杯の強がりを言って立ち去っていった。
それから三日三晩、風神と竜神は代わる代わる三里山に
挑みかかって行ったのじゃが、さすがの力自慢も山には及ばず
せいぜい木をなぎ倒したり数カ所崖崩れを起こしただけで
三里山そのものはびくともしないまま二人は力尽きてしまった。
あんな強がり言わなきゃよかった。二人はすっかりしょげかえって
それぞれの住み家へとすごすご引き返して行った。そして二度と
姫の前に姿をあらわすことはなかったそうな。